タイトル 15

2005年4月5日 連載
このあと、他の住人にも話を聞いたけど、あまりいい情報は得られなかった。次に、大家に話を聞いた。大家はアパートから2キロほど離れたところに住んでいた。
「すいません。あなたのアパートの住人の伊勢さんのことで、ちょっとお話をうかがいたいんですが。」
「あ、なんだい、また行方不明事件のことかい。かんべんしてくれよ。この事件のおかげでうちのアパートのイメージは下がってんだ。これ以上下げられたくない。帰ってくれ。」
後藤が何かいいそうになったが、止めて俺が聞いた。
「いや、あの、俺たち、伊勢君の友人なんです。伊勢君が行方不明になったってきいて、夏畑に5時間かけてやってきたんです。話くらいは聞いてください。」
「わざわざ5時間も、ご苦労なことで。」
「お願いします。何でもいいですからあいつのことを教えてください。それに、あいつが見つかったらあなたにとっても得じゃないですか。簡単に新しい人を入れるわけにもいかないでしょう。行方不明になった人間を勝手に追い出したなんてなったら、さらにイメージダウンですよ。それに、あいつが帰ってこないと家賃ももらえないでしょう。」
「いうねえ、あんた。でも、まあ、そういわれてみればそうだな。見つからないと俺は損ばっかりだ。いいよ、話をしてやるよ。」
「ありがとうございます。」
星野がほっとした顔をしている。後藤はまだ不機嫌そうな顔をしているが、ひじでこづいたら少し収まった。
「それじゃ、質問させてください。行方不明になる前、伊勢君に何か変わったことはなかったですか。」
「変わったことといわれてもね。別にいつもどおりだよ。あの人は家賃もすぐに払うし、まわりからの苦情も聞いたことないし、自分から苦情を言うことも無い。ごみの分別も完璧だし、なんの問題もない住人だった。まさかいきなりいなくなられるとは思ってなかったけどな。」
「そうなんですか。」
そういや、大学のころ、後藤が、伊勢の部屋がきれいで驚いたって言ってたな。俺は行ったことないから知らないけど。
「じゃ、伊勢君の部屋の中とかはどうですか。とつぜんいなくなったんですから、部屋の中も確かめたでしょう。」
「ああ、警察と一緒に調べたよ。見事なまでにきれいに片付いてたね。無駄なものが一切ない。」
そういや、風間が行方不明になった人の冷蔵庫の中にまだ食べ物があったって言ってたな。
「冷蔵庫の中とかはどうでしたか。」
「ああ、食べ物はいろいろ入ってたな。野菜や肉、魚はきちんとわけて入れられてた。」
うちの冷蔵庫みたいだ。直子は、俺が適当にものをいれるとすぐ怒る。魚や肉はチルド室、野菜は野菜室。あと、きちんと全体に冷風が行き届くよう入れ方に気をつけているそうだ。冷蔵庫の仕組みなんて俺はよく知らない。
「そうですか。他の住人の方々の評判とかはどうでしたか。」
「いやあ、特に何もないな。あの人の話をきいたことがないから。まあ、まじめな人ってところじゃないか。」
「そうですか。じゃ、お時間とらせてすいません。ありがとうございました。」
「ああ。もしあの人を見つけたら、早く先月分の家賃を払ってくれって言っといてくれ。」
ふう、疲れた。まったくこのゼニゲバめ。

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