タイトル 21

2005年4月11日 連載
昼休み、俺は伊勢らしき人物をさがしに、他のクラスをまわった。そいつは、簡単に見つかった。3年4組の教室で、一人弁当を食っていた。やっぱりあいつは伊勢だ。俺と同じ高校だったのか。でも、あいつそんなことは一言も言わなかったよな。俺はあいつの出身地さえしらないし。今中に入るのも目立つから、あいつが外に出たら声をかけようと思ったが、食べ終わったら本を読み出し、結局昼休みに出てくることはなかった。そのあとも休み時間のたびにあいつを見張ったが、(もちろん目立たないように)教室から出てこなかった。仕方がない。放課後にするか。放課後は人の移動が激しいから、あいつを探すのが大変になるんでさけたかったんだけど。
放課後、俺は3年4組の教室に向かった。よかった。伊勢はまだ中にいる。相変わらず誰とも話していないが、まあ、そのほうが都合がいい。しばらく待っていると、伊勢が教室から出てきた。教室から離れて、廊下を曲がったとこれで、俺は声をかけた。
「おい、伊勢。」
まだ確証はないけど。伊勢は気づいていないのか、そのまま歩いていく。
「おい、伊勢ってば。俺だよ、俺、坂田だ。」
俺はさっきよりも大きな声で言った。放課後特有のあわただしさで、少しぐらい大声をあげても、誰も気にとめやしない。やっぱり伊勢は気付かない。いや、もしかして本当にこいつは伊勢じゃないのかもしれない。だったら、反応しなくても当たり前だろう。でも、これであきらめたら、俺は手がかりを失ってしまう。伊勢じゃなかったら仕方がない。俺はそいつの肩をたたいて、もっと直接的に接触した。失敗したら、人違いだとあやまろう。「おいってば、ちょっと話を聞いてくれ。」
肩をたたかれたそいつは、やっと俺の存在に気付いたらしく、俺のほうを見た。
「な、何。」
「何、じゃないだろう。お前、伊勢だろう。俺は坂田。俺のことを忘れたのか。」
「た、確かに僕は伊勢だけどさ。え、え、君は、ええと、坂田君。」
やっぱりこいつは伊勢だった。でも、今は少し混乱しているらしい。
「いいから少し落ち着け。俺はお前の大学のサークル仲間の坂田広だ。ちょっとここじゃなんだから、どっか誰もいない落ち着けるところへ行こう。屋上でいいか。」
「う、うん。でも、何で君がここに。」
「いいから、その話はあとだ。」
こうして俺たちは屋上に向かった。めったに人はいないだろうが、ひょっとしたらいるかもしれないという不安はあったが、幸い誰もいなかった。伊勢は、不安そうに黙って俺のあとをついてきた。
「いいか、聞きたいことはいろいろあるけど、まずは俺から説明する。まず、お前は伊勢一彦で間違いないな。」
「うん。」
「ついこの間まで、夏畑で働くサラリーマンだった。で、俺の大学のサークル仲間だった。つまり、俺の知っている伊勢一彦で間違いないな。」
「うん。でも、君が何者かわからないから確証は持てないけど。本当に坂田君なの。僕の知ってる。」
「そうだ。お前がまじめに講義に出ていたのも知ってるし、2年前の同窓会で夏旗名物のうどんの話をしていたのも覚えている。」
「じゃあ、本当に僕の知ってる坂田君なんだ。じゃあ、教えてよ。一体僕に何があっんだ。」
「お前は、向こうの世界、てか未来か。で、俺がこっちにきてからの日数も含めて二ヶ月ほど前に行方不明になったんだ。原因不明の連続行方不明事件。覚えてるだろ。」
「うん。27歳以上の人しか行方不明にならない、そしてそれ以外てがかりがないとかいう変な事件だったような。そんで、僕も行方不明になってるんだ。」
「そうだ。お前が行方不明になったあとも、この事件は続いてる。お前の事件も手がかりが無かったから、この事件なんじゃないかってことになった。俺は違うっていってたんだけどな。でも、行方不明なのは事実だから、俺たちはお前を探してたんだ。ひょっとしたら大学がある砂原にきてるんじゃないかってな。」
ちょっと嘘ついたがまあいい。
「でも、お前は見つからなかった。で、俺と後藤と星野の三人で、お前を探しに夏畑までやってきたんだ。」
「そうなんだ。ありがとう、心配してくれて。僕もここに来て二ヶ月くらいだから、ちょうど僕が行方不明になった時期と一致するよ。」
「そうか、ならお前は行方不明になってここにやってきたんだな。て、ことは俺も同じ事件にまきこまれたってことか。お前、どうやってここに来たんだ。」
「なんだかわからないけど、朝家から出ようとドア出た瞬間に、まわりの景色がゆがんで、いつの間にか僕はこの学校の教室の中に入っていたんだ。君こそ、どうやってきたの。」
俺とは違うが、まあ大体同じだ。こいつもなんだかわからないけど、こっちにやってきてしまったんだな。と、いうことは、星野もこの世界にいるかもしれない。そして、今まで行方不明になった人たちも。
「俺もお前と似たようなもんだ。お前を探しに新潟まで来た日の夜、ジュースを買いに行ったら、わけわかんない現象に巻き込まれてここにきた。こっちにきてもう1ヶ月だ。あと、星野も俺と一緒に巻き込まれた。多分この世界にいるはずだ。俺たちと同じなら、あいつも高校生になっているはずだ。」
「そうなの。なら、はやくさがそう。」
「でも、手がかりは何にもねえ。あいつと連絡とろうにも、電話番号は携帯に記録させてたからわかんねえし、住所も知らない。さがしようがねえよ。」
「そっか、じゃあどうしよう。」
「わかんねえよ。俺も、お前を見つけて何か手がかりがあるかもと思ったんだ。元の世界に戻る方法が見つかるかもって。でも、お前も何もわかんねえんだろ。このまま俺たちはどうなっちまうんだよ。」
せっかく伊勢を見つけたのに、ほとんどまともな手がかりが得られなかった。くそっ。
「やあ、困ってるようだね、君たちぃ。」
なんだ。声のしたほうを振り向いてみると、この学校の生徒らしきやつが立っていた。でも、俺はこんなやつ知らない。そいつは俺たちをまっすぐ見つめている。

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