タイトル 22

2005年4月12日 連載
「伊勢、知り合いか。」
小声で聞いてみた。
「ううん、知らない。」
「そんな変な顔しないでくれよ。僕は君たちとお話に来たんだからさ。」
身長は170センチくらい。体はやせている。やけに姿勢がいい。黒髪がだらしなく伸びて、目と耳を隠していて顔はよくわからない。どことなく不気味な雰囲気をしたやつだ。
「誰だよ、お前。」
「あら、自己紹介がまだだったね。僕は黒岩。まあ、君たちの言葉で言う、化け物ってやつさ。坂田君。」
「はあ、何いってんだよ。」
頭がおかしいのか、それともただのナルシストか。てか、こいつは何で俺の名前を知ってるんだ。
「それに、何で俺の名前を知ってるんだ。」
「だから僕は化け物だって言ってるじゃないか。知らないことなんてないよ。そこの君は伊勢君だね。」
こいつは踊るような手つきで伊勢を指差した。伊勢はしり込みしている。
「それだけじゃないよ。こんなことも知ってる。君たちは、この間まで大人で、なぜだかわからないけどこの世界にやってきて高校生になった。今は自分たちに何が起きているかよくわかっていないけど、ただなんとなく日々を過ごしている。」
な、なんでこいつはそんなこと知ってるんだ。
「どうだい、図星だろ。ま、聞かなくても顔になんでわかったんだってかいてあるよ。」
「お、お前は俺たちに何が起こったのか知っているのか。」
こいつは片手を胸に当てながらいった。
「もちろん知ってるよ。なんてったって、化け物だからね。」
「じゃ、教えてくれ、俺たちに何が起こったんだ。」
こいつはフッと息を吐いてから言った。
「ま、半分気付いてるみたいだけどさ。本当に聞きたい。」
「当たり前だろ。」
「じゃ、教えたげるよ。君たちはタイムスリップしたんだ。君たちがいた2011年の10年前、2001年に。君たちは高校生のころに完全に戻ったんだ。」
やっぱりそうか。こいつの言葉を完全に信用していいのかわからないけど、ここまで俺たちのことを知っていたんだからたぶん間違いないだろう。俺たちはタイムスリップして高校生に戻った。これは現実なんだ。
「ここまではまあ大体気付いてるよね。一応言っとくけど、これは夢じゃなくて現実だよ。」
「なら、他の行方不明になった人たちも同じか。みんなこの時代に来ているのか。星野もこの時代に来ているのか。」
「いっぺんに言わないでくれよ。じゃあ、とりあえず最初の質問。他の行方不明になった人たちも同じか。まあ、全員ってわけじゃないよ。中にはあの事件にまぎれて自分で蒸発した人や誘拐された人もいるけど。まあ、だいたいそうだよ。きみたちと同じでタイムスリップしてる。以上、質問はある。」
ああ、俺の予想は半分は当たってたんだな。まあ、今はそんなことどうでもいい。
「いや、続けてくれ。」
黒岩は俺たちの前に指を二本立てた。
「それじゃ、二つ目の質問。みんなこの時代に来ているのか。答えはノーだ。人によってタイムスリップする時代は違う。理由は簡単。その人が自分の人生を決めるほどの大きな決定をする前の時代に飛ばされるから。タイムスリップするときの年齢も違えば、大きな決定をするときの年齢も違う。だから、誰がいつに飛ばされるかはその人しだい。」
「なんだよ、それ。無茶苦茶じゃねえか。」
「まあそうかもね。僕もなぜかはよく知らないんだ。」
「なんでだよ。ここまで知ってるくせに。この事件、お前がやったんじゃないのか。」
「おいおい、心外だな。僕がやったんじゃないよ。この事件は。まあ、関係者であることは確かだけど。」
「じゃあ、誰がやったんだよ。誰が犯人なんだ。」
犯人。そうだ、この事件は誰か犯人がいるのか。現に、目の前のこいつが事件についてやけに詳しいってことは、誰かがこの事件の起こして、それをこいつに教えたってことじゃないのか。
「犯人なんていないよ。」
いない。そうだよな。こんなこと普通の人間には不可能だ。なら、一体。
「これは自然現象みたいなものさ。地震だって断層に力が入りすぎて、それが爆発して起こるだろう。それと似たようなものさ。」
「どういうことだよ。」
「つまり、地震にたとえるなら、時間の断層に力が入りすぎたってことなのさ。時間の地震。ほんとはもっとややこしいんだけどね。」
「ぜんぜんわかんねえよ。時間の地震、時間の断層、それに力が入りすぎたってのはどういうことだ。」
「うーん、説明するのは難しいんだけどね。時間ってのは普段は過去から未来にむかって流れているものなんだよ。まあ、位置や物体のスピード、あとブラックホールなんかによって時間の流れが変わってくるところもあるけど、地球上ではどこもほとんど同じさ。でも、まあその時間の流れにも、たまに部分的にぶつかったり離れたりしているところがあるんだ。普通は気付かないけどね。でもね、その時間がぶつかっているところ、まあ、いいかたはおかしいけど、時間の断層に最近強い力がかかっているんだ。」
「なんだよ、その強い力って。」
「さっき犯人はいないって言ったけど、訂正するよ。人間さ。人間の心の力さ。とはいっても一人の人間じゃない。大多数の人間の。」

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