「人間。でも、なんで人間が時間の流れをおかしくすることなんてできるんだ。」
「君だって思ったことがあるだろう。今はいやだ、昔はよかった、高校生がうらやましい、とか。それ以外にも、逆に学生のほうが、大人はずるい、俺たちはこんなに苦しい思いをしてるのに何もしちゃくれない。なんにもわかっちゃくれない。自分も体験したとか言ってるけど、それならなぜ同じ苦しみを俺たちにも味合わせるんだ、なぜ変えようとしないんだ、お前らも同じ目にあってみろ、とかね。もちろん、こんなことは昔からあるよ。でもね、あまりにもその思いがたまりすぎたんだ。君たちはこの問題が存在しているのに無視してきた。学生時代はよかったとか、お前たちは恵まれてるとかいって聞こえないふり、いや、本当に聞こえていないのか。どっちか知らないけどね。とにかく、君たち大人の昔に戻りたいって意識と、子供たちのそれならお前らやってみろって意識によって、過去に流れようとする時間の流れが生まれた。まあ、でもそれは時間の流れを少しせき止めるほどの力しかなかったから、普通に時間は流れてたんだけど、その流れがぶつかっているところ、時間の断層ね。ここに力がたまりすぎてね。で、爆発しちゃったわけさ。」
「で、俺たちはそれにまきこまれたと。」
「そういうこと。全国各地で同じような爆発が起こってるんだよ。」
「でも、なんで27歳以上限定なんだ。」
「子供たちが敵の大人だって思い出すのがそれくらいの年齢からなんじゃないの。社会に慣れて、中には出世するやつも出てくる時期。まあ、この辺は僕にはよくわからないよ。」
「じゃあ、俺たちが高校生に戻ったのはなぜだ。お前の話だと、タイムスリップするだけのはずだろ。」
「君たちが巻き込まれたのは時間の爆発だ。子供たちの願いは、自分たちのことを分かっていない上、自分たちもこの状況を体験したくせに改善しようともしない大人たちに自分たちと同じ苦しみを味合わせることだ。その心の力は強くてね。ただでさえ強力な時間の爆発の力もあって、君たちを若くすることに成功したみたいだ。」
はっきりいってむちゃくちゃだ。俺たち大人と子供たちの考えが入り混じった影響で、日本各地に時間の爆発が発生して、俺たちは高校生にもどっただと。
「もうわけわかんねえよ。」
「ま、実際そうなんだからしかたないよ。おっと、忘れるところだった。三つ目の質問。星野君はどこに行ったのか、だったね。ごめんね。これはちょっと言えないんだ。これはルールだからね。やっぱりさ、実力で何とかしてもらわないとこっちとしても困るわけよ。僕が話せるのは君たちに何が起きたのかってことだけ。」
「ふざけるな。ここまで話しといてそれはないだろう。何がルールだ。わけわかんねえよ。」
「おいおい、別に僕は君たちの味方じゃないんだ。まあ、敵でもないけどね。」
黒岩はやれやれというポーズをとって言った。くそ、むかつく。
「僕は言うなら審判みたいなものさ。このゲームのね。」
「ゲーム。どういうことだよ。」
「君たち、もといた時代に帰りたいよね。」
黒岩がにやにや笑いながらきいてきた。
「当たり前じゃないか。早く帰ってみんなを安心させなきゃいけないし、仕事だってたまってるんだ。」
「ふーん。じゃ、帰る方法を教えてあげるよ。ただし、条件付だけどね。」
「あるのか、帰る方法が。」
やった、これで帰れる。
「あるよ。で、条件のことだけどさ。さっきも言ったけど、タイムスリップする人は、みんな自分の人生を決めるほどの大事な決定をする前の時期に飛ばされるんだ。元の世界に戻るには、その大事な決定を行えばいいわけ。」
「じゃあ、俺の大事な決定って何だ。」
「君の場合は、大学に合格すること。あの難関、国立砂原大学にね。伊勢君、君も同じさ。君たちは受験生になって、砂原大合格を目指すんだ。それ以外に帰る方法はないよ。」
「え…。」
もう一回砂原大に合格しろだって。そんな、無理だ。あのときだって、だめもとで、なぜ合格したのかわからないくらいギリギリだったってのに。俺があの大学に合格したのには当時の担任も驚いていたくらいなのに。あと、ただでさえ高校の内容をほとんど忘れているのに、今から勉強して合格できるとはとても思えない。
「あはは、もう絶望だって顔してるね。でもさ、一応君たちに朗報。君たちの学力は、君たちがこの時代にやってきたときまでのやつは回復してるから。坂田君の場合は高3の5月、伊勢君の場合は高三の4月。ま、これくらいはしとかないとフェアじゃないしね。君たちの一ヶ月は誤差って事で許してよ。何しろ最近多いんでね。僕も忙しいんだ。」
だからあの実力テストで高二までの内容はなんとなくわかったのか。でも、はっきりいってあのテストはほとんど出来なかった。あれがあのころの俺の実力だったってのか。
「それ以外には本当にないのか。もし合格できなかったらどうなるんだ。」
「ないよ。それがルールだからね。もし合格できなかったら、君たちはそのままこの時代に残って、新しい人生をやり直すことになるよ。これも悪くない話だと思うけどね。実際、そうすることを選ぶ人だっているしさ。さっきもいったように、これは子供の憎しみと大人の願望が生み出した現象なんだ。だから、一応君たち大人の昔に戻りたいや、人生をやり直したいって願いも聞いてあげられるのさ。」
「俺は元の時代に戻りたい。」
「だよね。まあ、いろいろ考えてみなよ。それじゃ、僕は次の人のところに行かなきゃいけないから。じゃあね。」
「あ、待て。」
そういって黒岩は消えてしまった。幽霊のように(いや、幽霊をみたことはないが)すうっと。あとにのこされた俺たちはしばらく無言だった。あいつの話では、もとの世界に戻るには、砂原大に合格しないといけない。昔の俺はそれを達成している。でも、ぎりぎりだ。もう一度やれといわれてできるだろうか。期限はあと一年、いや、一年もない。
「おい、伊勢。お前、できそうか。」
伊勢は黙っている。聞こえていないのか、それとも考えているのか。表情が変わらないのでよくわからない。
「おい、砂原大に合格できそうかってきいてんだ。」
「あ、ああ、うん。まだわかんないけど。」
まあ、そうだよな。俺だってわかんないし。
「坂田君はどう。」
「俺もわかんねえ。はあ、なんでこんなことになっちまったんだろうな。」
伊勢はまた黙った。特にこのままここにいても仕方が無いので、俺たちはもう家に帰ることにした。結局伊勢はずっと黙ったままだった。まあ、俺もだけど。
「君だって思ったことがあるだろう。今はいやだ、昔はよかった、高校生がうらやましい、とか。それ以外にも、逆に学生のほうが、大人はずるい、俺たちはこんなに苦しい思いをしてるのに何もしちゃくれない。なんにもわかっちゃくれない。自分も体験したとか言ってるけど、それならなぜ同じ苦しみを俺たちにも味合わせるんだ、なぜ変えようとしないんだ、お前らも同じ目にあってみろ、とかね。もちろん、こんなことは昔からあるよ。でもね、あまりにもその思いがたまりすぎたんだ。君たちはこの問題が存在しているのに無視してきた。学生時代はよかったとか、お前たちは恵まれてるとかいって聞こえないふり、いや、本当に聞こえていないのか。どっちか知らないけどね。とにかく、君たち大人の昔に戻りたいって意識と、子供たちのそれならお前らやってみろって意識によって、過去に流れようとする時間の流れが生まれた。まあ、でもそれは時間の流れを少しせき止めるほどの力しかなかったから、普通に時間は流れてたんだけど、その流れがぶつかっているところ、時間の断層ね。ここに力がたまりすぎてね。で、爆発しちゃったわけさ。」
「で、俺たちはそれにまきこまれたと。」
「そういうこと。全国各地で同じような爆発が起こってるんだよ。」
「でも、なんで27歳以上限定なんだ。」
「子供たちが敵の大人だって思い出すのがそれくらいの年齢からなんじゃないの。社会に慣れて、中には出世するやつも出てくる時期。まあ、この辺は僕にはよくわからないよ。」
「じゃあ、俺たちが高校生に戻ったのはなぜだ。お前の話だと、タイムスリップするだけのはずだろ。」
「君たちが巻き込まれたのは時間の爆発だ。子供たちの願いは、自分たちのことを分かっていない上、自分たちもこの状況を体験したくせに改善しようともしない大人たちに自分たちと同じ苦しみを味合わせることだ。その心の力は強くてね。ただでさえ強力な時間の爆発の力もあって、君たちを若くすることに成功したみたいだ。」
はっきりいってむちゃくちゃだ。俺たち大人と子供たちの考えが入り混じった影響で、日本各地に時間の爆発が発生して、俺たちは高校生にもどっただと。
「もうわけわかんねえよ。」
「ま、実際そうなんだからしかたないよ。おっと、忘れるところだった。三つ目の質問。星野君はどこに行ったのか、だったね。ごめんね。これはちょっと言えないんだ。これはルールだからね。やっぱりさ、実力で何とかしてもらわないとこっちとしても困るわけよ。僕が話せるのは君たちに何が起きたのかってことだけ。」
「ふざけるな。ここまで話しといてそれはないだろう。何がルールだ。わけわかんねえよ。」
「おいおい、別に僕は君たちの味方じゃないんだ。まあ、敵でもないけどね。」
黒岩はやれやれというポーズをとって言った。くそ、むかつく。
「僕は言うなら審判みたいなものさ。このゲームのね。」
「ゲーム。どういうことだよ。」
「君たち、もといた時代に帰りたいよね。」
黒岩がにやにや笑いながらきいてきた。
「当たり前じゃないか。早く帰ってみんなを安心させなきゃいけないし、仕事だってたまってるんだ。」
「ふーん。じゃ、帰る方法を教えてあげるよ。ただし、条件付だけどね。」
「あるのか、帰る方法が。」
やった、これで帰れる。
「あるよ。で、条件のことだけどさ。さっきも言ったけど、タイムスリップする人は、みんな自分の人生を決めるほどの大事な決定をする前の時期に飛ばされるんだ。元の世界に戻るには、その大事な決定を行えばいいわけ。」
「じゃあ、俺の大事な決定って何だ。」
「君の場合は、大学に合格すること。あの難関、国立砂原大学にね。伊勢君、君も同じさ。君たちは受験生になって、砂原大合格を目指すんだ。それ以外に帰る方法はないよ。」
「え…。」
もう一回砂原大に合格しろだって。そんな、無理だ。あのときだって、だめもとで、なぜ合格したのかわからないくらいギリギリだったってのに。俺があの大学に合格したのには当時の担任も驚いていたくらいなのに。あと、ただでさえ高校の内容をほとんど忘れているのに、今から勉強して合格できるとはとても思えない。
「あはは、もう絶望だって顔してるね。でもさ、一応君たちに朗報。君たちの学力は、君たちがこの時代にやってきたときまでのやつは回復してるから。坂田君の場合は高3の5月、伊勢君の場合は高三の4月。ま、これくらいはしとかないとフェアじゃないしね。君たちの一ヶ月は誤差って事で許してよ。何しろ最近多いんでね。僕も忙しいんだ。」
だからあの実力テストで高二までの内容はなんとなくわかったのか。でも、はっきりいってあのテストはほとんど出来なかった。あれがあのころの俺の実力だったってのか。
「それ以外には本当にないのか。もし合格できなかったらどうなるんだ。」
「ないよ。それがルールだからね。もし合格できなかったら、君たちはそのままこの時代に残って、新しい人生をやり直すことになるよ。これも悪くない話だと思うけどね。実際、そうすることを選ぶ人だっているしさ。さっきもいったように、これは子供の憎しみと大人の願望が生み出した現象なんだ。だから、一応君たち大人の昔に戻りたいや、人生をやり直したいって願いも聞いてあげられるのさ。」
「俺は元の時代に戻りたい。」
「だよね。まあ、いろいろ考えてみなよ。それじゃ、僕は次の人のところに行かなきゃいけないから。じゃあね。」
「あ、待て。」
そういって黒岩は消えてしまった。幽霊のように(いや、幽霊をみたことはないが)すうっと。あとにのこされた俺たちはしばらく無言だった。あいつの話では、もとの世界に戻るには、砂原大に合格しないといけない。昔の俺はそれを達成している。でも、ぎりぎりだ。もう一度やれといわれてできるだろうか。期限はあと一年、いや、一年もない。
「おい、伊勢。お前、できそうか。」
伊勢は黙っている。聞こえていないのか、それとも考えているのか。表情が変わらないのでよくわからない。
「おい、砂原大に合格できそうかってきいてんだ。」
「あ、ああ、うん。まだわかんないけど。」
まあ、そうだよな。俺だってわかんないし。
「坂田君はどう。」
「俺もわかんねえ。はあ、なんでこんなことになっちまったんだろうな。」
伊勢はまた黙った。特にこのままここにいても仕方が無いので、俺たちはもう家に帰ることにした。結局伊勢はずっと黙ったままだった。まあ、俺もだけど。
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