タイトル 26

2005年4月17日 連載
 長い午前中が終わってようやく昼休み。まじめに授業を受けるとこんなに疲れるものだったのか。さっきの体育も手伝って、頭も体もすごいだるい。俺は伊勢を誘って屋上で昼飯を食べようと思ったが、伊勢は教室にいなかった。
「おい、坂田。パン買いにいこう。」
花井が声をかけてきた。こいつは俺がこの時代にきたときにはじめて声をかけてきたやつ。てか、こいつとあとひとり、品川以外誰も声をかけてこない。俺には近寄りがたいオーラでも出ているんだろうか。それとも、俺の中の27歳の心が他のやつを避けてるんだろうか。いや、高校のころ、友達ってこの2人くらいしかいなかったんだっけ。
「おう、行こう。」
購買でパンを買って、花井と一緒に食べることにした。パンを買ったあと、教室にもどり、俺がパンの袋を開けようとしたとき、花井が突然こういった。
「坂田、お前、最近ちょっと変わったな。」
「へ。」
「絶対変わったって。何か、最近のお前って雰囲気が違うもん。大人びてるっていうか、さめてるっていうかさ。」
確かに、17歳のころの俺と、中身27歳の今の俺とはかなり違うだろう。考え方だって変わってるし、いろんな経験もしてきた。こないだまで17歳だったやつがいきなり27歳になったんだから、まわりのやつから見たら違和感があるのかもしれない。でも、それを感じさせないようにしてきたつもりなんだが。
「そんなことねえよ。何にもかわってないって。」
「いや、変わってる。あと、心ここにあらずって感じもする。なんかあったのか。」
う、こいつ意外と鋭い。確かに俺の心はここにはない。元の時代にもどることが目的なんだから。
「だからそんなことないって。俺は俺。変わんねえよ。」
「まあお前がそういうんならいいけどさ。ま、様子がおかしい気がしたからなんか悩みでもあるんじゃないかと思ってさ、聞いてみただけ。」
ああ、よかった。別に俺のことを怪しい目で見ていたわけじゃなかったんだ。
「ああ、ありがとな。俺の心配より、自分の心配しろよ。お前、進路どうするんだっけ。」
「俺か。いや、まだ未定。確かに人のこと言えないわ。」
花井は笑った。ああ、そういえば。俺はこいつの未来を知らない。これはいいことだな。下手に知ってたらよけい怪しまれるだけだ。でも、それはつまり、こいつとの関係も、高校を卒業したら疎遠になってしまってるってことだ。俺から連絡したこともないし、こいつから連絡が来たことも無い。もし会うことがあれば話すこともあるだろうけど、ひょっとしたらお互いの顔を覚えていないかもしれない。少なくとも俺は、この時代にくるまでこいつを忘れていた。友情は大切だなんて考えてるくせに。時間の流れとは残酷だ。
「じゃあ、お前は進路どうすんだよ。進学クラスなんだから、行くんだろ、大学。」
「ああ、そのつもりだけど。」
「じゃあ、どこの大学。」
「あー、うん。砂原大。」
そうだ。俺の目指す大学はそこしかない。そこに行かない限り俺は元の時代に戻れないんだから。
「え、まじでいってんの。正直、お前そんなに成績よくないだろ。なんでいきなりそんな難関大を目指すのさ。」
なんでこいつは俺の成績を知ってるんだ。誰かに教えたわけでもないのに。ああ、でも他人の成績ってやつはどこからか情報がもれているもんだったっけ。
「いいだろ。今からがんばる。」
「まあいいけどさ。まあ、俺からはがんばれとしか言えないけど。」
「ありがたく受け取っとくよ。」
そのあとしばらくどうでもいい話をした。昨日のテレビの話や、サッカーの話など。ワールドカップはまだ一年も先だっていうのに、花井はもう日本代表のスタメンや、ワールドカップの優勝予想なんかをしていた。特に俺はサッカーに興味は無いんだけど、話を合わせて、ドイツのゴールキーパーに注目してると言うと、花井は誰だそいつ、と笑った。ああ、そうだ。まだオリバー・カーンは日本ではそんなに人気が無いんだった。

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