それからしばらく、伊勢は学校に来なかった。俺は相変わらずな日々を過ごしている。実力テストの結果が返ってきた。偏差値平均46.3。まて、俺ってこんなに出来なかったか。次は英単語テスト。それが終われば中間テスト。その5日後に模試があることが今朝担任から告げられた。まて、めちゃくちゃじゃないか。そんなわけで今俺は英単語を暗記しながら中間テストの勉強をし、受験勉強をしている。と、いえば聞こえはいいが、実際にはどっちつかずの状態で何をしたらいいのかわからない。まずは目の前の英単語だろうか。いや、これは落ちても再テストがある。評価は落ちるだろうが力を抜くか。なら、中間テストをやるべきか。でも、これは受験の範囲外のところまである。でも、成績は落とせない。模試は成績に関係ないから後回しにするか。いや、でも自分の実力を見るためにちゃんとしないと。受験のメイン教科だし。あー、もう。どうすりゃいいんだ、俺は。
そんなある日の夜。俺は部屋でテレビをつけながら歴史の問題集をといていた。範囲は江戸初期から中期まで。幕末なら得意なんだ、幕末なら。すると、
「ひろしー。電話―。」
なんだ。俺に電話。俺はこの時代に知り合いは3人しかいない。伊勢と花井と品川。どいつも俺の連絡先は知らないはずだ。
「わかったー。」
俺は母から電話をうけとった。
「もしもし。」
「もしもし。あの、坂田広君ですか。」
小さい声だがよく通る声だ。あの3人ではない。
「はい、そうですけど、あの、どちら様ですか。」
「あの、星野悟って言います。あの、ほら、大学の同級生の」
「え、あ、え、え、も、もしかして、星野。」
星野だ。やっぱりあいつもこの時代に来ていたんだ。
「なによ、大きな声出して。」
母が文句を言った。そうだ、この話は人にきかれちゃまずい。ちょっとまってくれとだけいい、俺はコードレス電話をもって自分の部屋に戻った。
「星野、おい、お前本当に星野か。」
「うん。よかった。やっと見つかったよ。あれから、僕は君の出身地ってきいてた、中林の坂田って電話番号に、手当たりしだい電話かけてたんだ。もしかしたらつながるかもって思って。君、今なにしてる。もしかして、高校生に戻ってる。」
「そのとおりだ。お前は。」
「僕も。本当は、もっと速く連絡を取りたかったんだけど、はじめどうしたらいいのかわからなかったし、いきなり見ず知らずのはずの君を探すのを人に頼むのも怪しまれそうだったから、電話でかたっぱしからって物量作戦しかなかったんだ。それに、僕、全寮制の高校に通ってるから、電話は自由には使えなかったから苦労したよ。だから、今までかかっちゃったんだ。」
「全寮制の学校。お前、今どこにいるんだ。」
「僕は八が島の八が島第二高校の寮にいるよ。」
八が島。ずいぶん遠いな。かなり南じゃないか。
「おまえ、そんな遠いとこ出身だったのか。ぜんぜん知らなかった。実家に帰ろうとしたこともなかったよな。」
「うん。まあ、うちの家族関係はちょっとね。」
星野は少し笑ってごまかした。大学のころ、こいつは一度も実家に帰らなかったし、帰ろうともしなかった。そのときは別に気に求めていなかったが、こいつにもやはり何かしらの事情があったんだろう。そうだ、そういや伝えないといけないことがあった。
「そうか、まあこれ以上は聞かない。それより、喜んでくれ、といっていいのか。伊勢が見つかった。あいつもこの時代に来ていて、俺と同じ高校に通ってる。」
「えっ、そうなの。そうか。伊勢君もこれに巻き込まれてたんだ。」
星野は、喜びと悲しみの混じった声で言った。
「そうだ。あいつは俺たちよりももっと早くからこっちの時代に来ていたらしい。高校で見つけたときは驚いた。あいつが俺と同じ高校に通っていて、俺と同じようにタイムスリップしているなんて思わなかったしな。」
「そっか。でも、まあ見つかってよかった。というしかないよね。」
「そうだな。あいつにもまたお前に連絡させるよ。電話番号教えてくれ。」
「うん、えーと、寮の電話だから簡単につながるかわかんないけど。えーと、○○○○××××。」
「ん、と。わかった。また連絡する。そうだ、お前、調子はどうなんだよ。」
「え、うん、まあ普通に高校生活を過ごしてる。でも、このままじゃダメだよね。どうにかしてもとの時代に変える方法を探さないと。」
そうだ、俺たちは元の次代に帰らないといけない。でも、その方法を星野は知らないみたいだ。黒岩のやつ、何て適当な。とにかく教えないと。
「それなんだが、一応俺と伊勢は、その方法を知っている。」
「え、ホント。だ、だったらはやく教えてよ。」
「その前に、お前、黒岩ってやつに会わなかったか。」
「黒岩さん。いや、あったことないけど。」
「じゃ、なんか怪しげなやつに声をかけられたことはなかったか。」
「うーん、どうかな。無かったと思う。」
やっぱり黒岩が現れるのは適当みたいだな。そういや、最近人がたくさん来るので忙しいとか何とかいってたな。無責任なやつだ。
「そうか、じゃあ仕方ないな。とにかく、なんかうさんくさいやつがいるんだ。そいつから聞いたんだが、俺たちはやっぱりタイムスリップしたらしい。難しい説明は省くけど、それだけは間違いない。そして、元の世界に戻るには、その人にとっての人生を決めた大きな決断をしないといけないんだ。だから、タイムスリップさせられる時期は、その決断よりも前になるらしい。」
「人生を決めた大きな決断。それって何。」
「人によって違うらしい。たとえば、俺と伊勢の場合は、砂原大学に合格すること。はっきりいって、かなりきつい。」
「砂原大合格。じゃ、僕はいったいどうすればいいの。」
「そうだ、それなんだが、人によって違うってことは、お前が帰る方法は俺にはわからないんだ。俺も、その黒岩ってやつにきいて、初めてわかったんだから。」
「そうなんだ。さっきから言ってる黒岩さんってだれ。」
「なんか、自称化け物ってやつだ。いや、じっさい化け物なんだけど。上手く説明できないけど、この事件に関係していることだけは間違いない。俺と伊勢の名前を知っていたし、その場から消えることもできた。やっぱりうさんくさいけど、信じるしかないだろう。お前も、いつか会えるはずだ。あいつの仕事は、この現象を説明することらしいし、フェアじゃないからといって、俺にはだいたい高二までの学力を戻してくれた。こういうことにこだわるやつが、現れないってこと無いはずだ。」

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